サブスリーが市民ランナーにとっての「勲章」である理由

ランナーズ2008年7月号より

 プレ五輪大会として開かれた「幸運北京マラソン」に日本陸連科学委員として帯同してきました。大会には土佐礼子選手、尾方剛選手、佐藤敦之選手だけでなく3名の実業団の監督も走りました。その一人に48歳の大塚製薬河野匡監督(日本陸連マラソン部長)がいました。実は河野監督、現役時代は3000m障害が専門で(82年アジア大会金メダリスト)、フルマラソンは2回目(初マラソンは07年10月の北京国際マラソン3時間7分38秒)。冷たい雨の降る中、自己記録を更新し3時間5分56秒でゴールしました。私は河野さんの走りを見て「やはり素質ってすごい!」と痛感しました。今回は最大酸素摂取量(VO2max)からマラソンの素質について語ることとします。

 火を燃やす時に酸素を使うように、体内のエネルギーを燃やす時にも酸素を使います。若干の個人差はありますが、安静にしている時は、私たちは体重1kg当たり1分間に3.5mlの酸素を使っています。つまり、体重60kgの人の場合、3.5×60=210ml/分の酸素を使っていることになります。

 歩いたり走ったりすると、安静時に使っている酸素に加えて、走る(歩く)ために必要な酸素の量(移動のための酸素量)も増加します。分速1m速くなる毎に必要とされる酸素量は、体重1kg当たり0.2ml/分ずつ増えていきます。例えば、分速200m(キロ5分ペース)で走っている場合の必要酸素量は次の式で求められます。3.5ml(安静時にも使う酸素)+0.2ml×200(移動のための酸素量)=43.5ml/kg/min。

 一方、一流選手は体重1kg当たり70~80ml/分ほどの数値です。これに対してトレーニングをしていない平均的な一般男性で50ml/分、女性では40ml/分ほどしかありません。また、最大摂取量へのトレーニング効果は20%程度が上限ですので、一般男性が精一杯トレーニングをしても60ml/分前後にしかなりません。つまり一流選手の値は、言わば「持って生まれたもの」と言ってもいいでしょう。VO2maxの速度で走れことができるのは、せいぜい4~5分程度なので1500mの全力走に匹敵しますが、マラソンでは、ほとんどの市民ランナーはVO2maxの60%前後でしか走れません(質・量ともに高いトレーニグによって、エリートランナーは75%、超エリートは85%程度まで追い込んで走ることができます)。

 VO2maxが60ml/分の人が、その60%で走った場合、マラソンの記録は約4時間20分になります。(3.5ml+0.2ml×(分速)=60ml×0.6より分速は162.5mと求められる。このペースでマラソンを走ると約4時間20分となる)。サブスリー(キロ4分15秒ペース=分速約235m)に必要な酸素量は前での計算式から逆算すると約50.5ml/分。この値はVO2maxが60ml/分の人が、その85%で走った時に可能となります。つまり、一般の人がVO2maxも、追い込んで走る強度も精一杯向上させたことを意味します。だからこそ、サブスリーは市民ランナーの勲章ですし、努力次第では誰にでも可能性がある、大きな目標となるのでしょう。

       石井 好二郎(同志社大学スポーツ健康科学部教授)

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